peektnurseの日記

呼吸関連のCNです。単純に呼吸ケア好きです。知識のoutputのために思ったことを書いていきたいと思います。

気管吸引で日々思うこと

気管吸引は呼吸を維持する上で不可欠な処置です。

在宅では家族など非医療者も行うありふれた処置でもあります。

そんなありふれた処置だからこそ、日々の業務で思うことが色々あるのです。

つらつら書きます。

 

吸引の侵襲を過小評価していないか?

「とりあえず吸引しておこう。」

そんなフレーズを割と耳にします。

とりあえず?

吸引はそんな軽く実施する処置なんでしょうか。

気管吸引の合併症は以下の通りです。

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気管吸引の合併症

合併症の中には命に関わるものもあります。

決して「とりあえず」することではないですよね。

吸引は明確に目的を持ってするもの

気管吸引の目的は

気道の開放性を維持・改善することにより、

呼吸仕事量(努力呼吸)や呼吸困難感を軽減すること、肺胞での

ガス交換能を維持・改善することである。

(気管吸引ガイドライン2013より引用)

 これを見るに、吸引は

気道の開放性を維持できず、

呼吸仕事量(努力呼吸)の増加や呼吸困難が生じていて、肺胞での

ガス交換能を維持できない時

に初めて実施することになります。

したがって、実施に当たっては吸引を実施すると判断し得るアセスメントが必須なのです。

目的がなければ評価はできない

実施する動機が「とりあえず」であった場合、

当然、実施した後の評価はできません。

何かが悪いと思ったから吸引したわけではないので。。。

そのスパイラルに嵌ると永遠にNOアセスメントでルーティン吸引を行うことになります。

吸引前の評価が確実なら、自ずと後の評価もついてくると思います。

痰を取り切ることが目的ではない

吸引は痰を取り切ることが目的ではありません。

目的は呼吸状態の改善です。

吸引し終わった後に

まだ痰が残っているからと、アセスメントなしに連続で吸引していませんか?

痰があるから吸引するのではないです。

その痰によって呼吸状態が悪化しているから吸引をするのです。

なので、吸引のoutcomeは「痰が残っているかどうか」ではなく「呼吸状態」そのものです。

吸引の差し控え

まだ痰が残っていたとしても、吸引をしなくてもよいと判断できる場合があります。

吸引のメリットより吸引による合併症のリスクが大きいと考えられる場合

です。

吸引は侵襲が大きい処置です。

常に患者の状態と合併症のtrade offであることを忘れないで欲しいです。

この吸引の差し控えの判断をするには、吸引前後のアセスメントが必須です。

アセスメントを繰り返して判断を磨く

必要な吸引を怠れば窒息の可能性があります。

その怖さから盲信的にルーティンで吸引する人が多いと思います。

怖いのは「吸引の必要性がわからない」からだと思います。

「わからない」のはアセスメントがないからです。

最初は難しいかもしれませんが、吸引前後のアセスメントを繰り返していくことで、自信を持って吸引を差し控えることができるようになると思います、多分。

 

最後に

 吸引自体が悪ではありません。

無益な吸引を実施しないことが患者の益になります。

アセスメントなしに吸引を控えることは逆にリスクになります。

考える続けることが必要だと思います。

 

といつも心の中で思っていたりする。

痰詰まりを防ぐには

痰詰まりで呼吸状態が悪化すること、見たことはありますか?

痰が溜まり気道が閉塞することで最悪では窒息に至ります。怖いです(;´・ω・)

今回は経験も踏まえての痰詰まり予防を考えてみました。

 

 

 

病棟の特殊性と痰詰まりのリスク

この痰詰まり、一般病棟と急性期病棟では前者の方がリスクが高いと考えています。。

急性期病棟は

 

  • 常にモニタリング可能
  • 受け持ち患者が少ないためすぐにベッドサイドに行ってケアができる

 

マンパワーに余裕があり、生体モニタが豊富なので、患者の僅かな変化に気付きやすいです。

また、1人の患者にじっくり関わることができるので排痰ケアもしっかりとできます。

一方、一般病棟は条件が違います。

 

  • モニタリング機器が限られている
  • 受け持ち患者が多い(夜勤では10人以上の時も)
  • 新人など経験が浅いスタッフが多い(うちの病院だけかも)

 

 患者の変化には気付きにくく、一人にじっくり関わる時間的余裕はないです。

また自分の病院だけかもしれませんが、経験の浅いスタッフが多いため、排痰ケアなどの呼吸ケアの標準化が難しい状況です。

勿論、病棟が異なっても最低限のケアの質が維持されるのが理想ですが。。

その様な背景も踏まえて、一般病棟での

痰詰まり急変を予防するための最低限の知識

ってなんだろうなって視点で考えてみました。

痰詰まりを防ぐには  

 呼吸数、呼吸様式をみる

です。 

あれ?体位ドレナージは?スクウィージングは?

それは一旦置いておいて

「急変を予防するため」にはまず

痰詰まりになるほどの痰があることに気付く必要があります。

その「気付き」が呼吸数と呼吸様式の観察で成されると考えています。

 痰詰まりになるほどの痰がある⇒呼吸状態が悪化するかもしれない

 これを認識しているだけで急変は予防できる可能性があります。 

「この人、痰多くて取り切れない。危ないかもしれない。」と認識していれば

 

  • 気になって頻回に見に行く
  • 他の人に相談する
  • モニタリング機器を装着する
  • 排痰ケアを行う 

 

ことができます。

そして気付きの結果、 

気になって見に行く 他の人に相談する

ことは例え新人さんでもできることです。

新人さんの段階で的確なアセスメントで排痰ケアを行うことができる人は少ないと思います。

でも悪化が予見されるなら,

病棟の中で自分よりちょっとでも呼吸ケアに詳しい人に相談できるかもしれません。 

急変はチームワークで予防! 

そのために

急変の予兆を拾う気付き⇒痰詰まりになるほどの痰があるのかどうかを知ること

 が大事だと考えます。

では、なぜその気付きに呼吸数と呼吸様式が必要なのでしょうか。

 

呼吸数と呼吸様式で気付く

 痰詰まりの危険に気付くには

当然ながら、痰の「ある・なし」がわかる必要があります。

痰のある・なしで最初に「聴診」が思いつく人は多いと思います。

痰があるとゴロゴロ(coarse crackles)、グー(rhonchi)とか聴こえます。

聴こえたら痰があります。

でも、そもそも聴診でそんな音が聞こえたら容易に「気付く」はずですよね。

副雑音の種類なんか分からなくても、少なくとも「正常ではない」ことは分かります。

そのため、

聴診でわかる痰=対応がされやすい

=急変につながりにくい

と考えます。

でも

聴診で副雑音が聴こえなくても痰がある時があります(経験ありませんか?)

 

聴診で痰があると分かるのは66%とする文献があります。(挿管時ですが。。)

Bedside detection of retained tracheobronchial secretions in patients
receiving mechanical ventilation: is it time for tracheal suctioning?PMID11035638

   

つまり、聴診で副雑音がなくても痰がある場合があります(;´・ω・)

私の考えでは

 

  • 聴診で分かる痰は容易に「気付く」=痰詰まりに繋がりにくい
  • 聴診で気付くことができない痰=痰詰まりの急変に繋がる

 

ということです。

痰のアセスメントでは見る・聴く・触るフィジカルアセスメントが大事です。

でも、このフィジカルアセスメントってのは結構難しいのです。

感覚に頼る部分が多く定量化がしにくいため、適切なアセスメントをするためには経験値が必要になってきます。

はっきりとした数字が出て高い低いと分かるわけではないので、回数を重ねて練度を上げるしかないのです。

というわけで新人さんに正確なフィジカルアセスメントを要求するのは酷な話になります。

では、どうするか?

ここで呼吸数と呼吸様式が出てきます。

この2つは視覚に頼るので、意識すれば観察自体は容易です。

少なくとも聴診や触診よりは分かりやすいです。

しかも聴診で拾えない痰の存在も拾える可能性があります。

(呼吸数は測定自体は簡単だけど、測定行動に至るまでが難しいってのが持論です。)

呼吸数と呼吸様式を利用しない手はないです。。

 

なぜ呼吸数?

痰が詰まるということは肺胞が痰で満たされるということです。

痰で満たされた肺胞では酸素を身体に取り込めません。

その時に身体が行うことは

空気を吸う量=換気量を増やすこと

です。

痰のせいで酸素の取り込みが減った⇒代わりに換気量を増やす

ことを「代償」といいます。

換気量を増やす方法は2通り、

呼吸数を増やす・努力呼吸をすること

つまり、痰が詰まり始めれば代償的に呼吸数が増えるのです。

必ずしも「呼吸数の増加=痰詰まり」ではないですが、

それまで頻呼吸がなかった患者が頻呼吸になっているということは、身体に何らかの変化が起きているはずです。

仮に痰詰まりではなくても、何かしらの徴候としての「気付き」になります。

その気付きが次の対応に繋がります。

 

なぜ呼吸様式?

痰が詰まっているということは、空気の通り道が細くなっている状態です。

要は細いストローで呼吸をしている状態です。通り道が細い分、呼吸を頑張ってして補わなければいけません。

つまり、努力呼吸になります。

努力呼吸=一生懸命吸っている呼吸

努力呼吸は「安静時は動かさない筋肉を使って呼吸をしている」状態です。

判断する上で分かり易いのは首の筋肉です。

努力呼吸の時は首~鎖骨らへんの筋肉(胸鎖乳突筋と斜角筋)を使うので吸った時に鎖骨が凹みます。

健康な人でも深呼吸中とか走った後とかに凹みます。

「鎖骨凹み呼吸」をしていたら努力呼吸です。 

自力喀痰できない患者さんが、さっきとは違い頻呼吸、努力呼吸になっている

場合は痰詰まりの可能性が挙げられます。

後輩が「自力排痰できない患者さん、吸引はしてるんですけどさっきより頻呼吸なんですよね。SpO2は99%です。」とざっくり報告があったらSpO2だけで判断せずに相談に乗ってあげてください。

 

SpO2の変化は遅れてやってくる

SpO2の変化は呼吸数と努力呼吸の後

酸素の取り込み不足が

呼吸数と努力呼吸で代償されていれば、SpO2は変わりません。

SpO2が低下するのは代償が破綻し始めた時であり、その時にはもう急変に近いかもしれません。なので、SpO2が良いけど頻呼吸、努力呼吸がある時に気付くことが大事かなと思います。

 

最後に

今回は難解なフィジカルアセスメントを思い切って省略して、呼吸数、呼吸様式に気付きの可能性を全振りした極論です。理想は的確なフィジカルアセスメントと排痰ケアで痰詰まりを予防することであるのは言うまでもありません。

 

※呼吸数と呼吸用様式の観察は容易と書きましたが、実はとても奥深いものです。「自発呼吸アセスメント指針(一般社団 日本呼吸療法医学会 自発呼吸アセスメント指針作成ワーキンググループ)」を読んでみてください。

https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/pubcome010.pdf